この記事を読むとわかること
- ワーキングメモリとは何か、短期記憶との違い
- ワーキングメモリが勉強の効率を左右する理由
- ワーキングメモリが小さいときに出やすいサイン
- 科学的に効果があるとされる鍛え方と、その限界
- 今日から使える、脳の負担を減らす勉強の工夫
ワーキングメモリとは、頭の中に情報を一時的に置きながら、同時にそれを使って考える脳の力のことです。これが小さいと、覚えたはずのことが文章題の途中で消えてしまい、勉強の効率が大きく下がります。
「先生の話を聞きながらノートを取ると、何を書こうとしていたか忘れる」「数学の文章題を読んでいるうちに、結局何を求めればいいのかわからなくなる」——こうした経験は、意志の弱さや不注意のせいではありません。脳の「メモ帳」であるワーキングメモリの使い方に、コツがあるだけです。
ワーキングメモリの仕組みを知り、負担を減らす工夫を身につければ、同じ勉強時間でも頭に残る量は変わってきます。
ワーキングメモリとは?「脳のメモ帳」と呼ばれる理由

ワーキングメモリとは、目の前の作業に必要な情報を数秒から数十秒だけ脳に置いておき、同時にそれを使って考える働きのことです。
黒板の文字を写しながら先生の説明も理解する、電話番号を聞いてからボタンを押すまで覚えておく——こうした「覚える」と「使う」を同時に行う場面すべてに、ワーキングメモリが働いています。まさに、作業のたびに開いてはすぐ消える「脳のメモ帳」のようなイメージです。
短期記憶とワーキングメモリの違い
短期記憶は、情報をただ一時的に保つだけの受け身の働きです。一方でワーキングメモリは、情報を保ちながら並行して別の処理を行う、より能動的な働きを指します。
たとえば電話番号を「聞いたまま繰り返す」のは短期記憶、「聞いた数字を並べ替えて暗算する」のはワーキングメモリです。勉強で求められるのは、ほとんどが後者にあたります。
前頭前野が担う「保持」と「処理」の同時進行
ワーキングメモリは、主に脳の前頭前野という部分が担っています。京都大学の苧阪直行教授の研究では、情報を一時的に保持する働きと、それを使って考える働きが、前頭前野を中心に同時進行することが示されています。
この「保持」と「処理」を同時にこなす負担が大きいほど、脳は疲れやすくなります。長時間の勉強で集中が続かなくなるのは、この負担の蓄積が一因です。
出典:J-STAGE「前頭前野とワーキングメモリ」(高次脳機能研究, 苧阪直行)2012年3月 https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/32/1/32_7/_article/-char/ja
なぜワーキングメモリが勉強の効率を左右するの?

ワーキングメモリの容量を超える情報を扱おうとすると、勉強のあらゆる場面でつまずきが起こります。
数学の文章題で「結局何を求めるんだっけ」となる理由
文章題は、条件を読み取りながら式を立て、計算しながら最初の問いを覚えておく必要があります。条件が3つ、4つと増えるほど、保持すべき情報がワーキングメモリの容量をあふれてしまいます。その結果、「あれ、何を求めればよかったんだっけ」という状態に陥ります。
板書を写しながら先生の話を聞けなくなる理由
ノートを写す作業と、話を理解する作業は、どちらもワーキングメモリを使います。2つの作業が同時に容量を奪い合うため、「写すのに必死で内容が頭に入らない」という状態が起こりやすくなります。
長文読解で最初の一文を忘れてしまう理由
英語や現代文の長文では、前の段落の内容を覚えたまま次の段落を読み進める必要があります。ワーキングメモリの容量が足りないと、読み終えたときには最初の内容が抜け落ち、何度も読み返す羽目になります。
ワーキングメモリが小さいとどんなサインが出る?

ワーキングメモリの負担が大きい状態が続くと、勉強や日常生活にいくつかのサインが表れやすくなります。あくまで目安であり、いくつか当てはまったからといって病気や障害を意味するわけではありません。
| 場面 | 出やすいサイン |
|---|---|
| 授業中 | 指示を2つ以上出されると、一つを忘れてしまう |
| 勉強中 | 文章題や長文の途中で、問いの内容を見失う |
| 提出物 | 持ち物や締め切りをよく忘れる |
| 会話 | 話している途中で、何を言おうとしていたか忘れる |
| 片付け | 作業の途中で目的を見失い、別のことを始めてしまう |
気になるサインが多い場合は、次に紹介する工夫を試しつつ、負担が大きいようであればスクールカウンセラーや医療機関に相談するのも一つの方法です。
ワーキングメモリは鍛えられる?科学的に言われていること

ワーキングメモリのトレーニングには、効果が期待できる部分と、まだ証拠が乏しい部分があります。両方を知っておくと、期待しすぎず、がっかりもせずに取り組めます。
N-back課題などのトレーニングでわかっていること
数字や図形を一定時間覚えながら新しい情報を処理する課題を「N-back課題」と呼びます。このようなトレーニングを続けると、そのトレーニング自体の成績は着実に上がります。トランプの神経衰弱や暗算ゲームも、似た負荷を脳にかける遊びです。
トレーニングの効果には限界もある
一方で、LITALICO発達ナビが専門家監修のもとにまとめた記事によると、近年の研究では違う見方も示されています。特定のトレーニングで得意になった作業が、そのまま学力全般の向上につながるとは限らないというものです。トレーニングで鍛えられるのは「そのやり方の慣れ」に近く、容量そのものが劇的に増えるわけではない、という見方が有力です。
「トレーニングさえすれば成績が上がる」と考えるのではなく、次で紹介するような、日々の勉強のやり方を工夫することのほうが、実感を得やすいはずです。
出典:LITALICO発達ナビ「ワーキングメモリは鍛えられる?短期記憶や発達障害との関係は」2025年8月 https://h-navi.jp/column/article/35026645
今日からできる、ワーキングメモリの負担を減らす勉強法

ワーキングメモリの容量を増やすことよりも、容量を使い切らない工夫のほうが、今日からすぐに実践できます。
メモに書き出して「頭の外に置く」
覚えておくべき情報は、頭の中に置かず紙に書き出しましょう。文章題を解くときは、条件を一つずつ書き出してから式を立てると、ワーキングメモリを計算そのものに使えます。
情報をひとまとまりにする「チャンキング」
バラバラの情報は、意味のあるまとまりにすると覚えやすくなります。「1、9、4、5」を4つの数字として覚えるより、「1945年」という一つのまとまりとして覚えるほうが、負担は小さくて済みます。年号や英単語の暗記にも応用できる考え方です。
タスクを一つずつに分解する
「ノートを取りながら話を聞く」のように複数の作業を同時にこなそうとすると、ワーキングメモリを奪い合ってしまいます。まず話を聞くことに集中し、要点だけを後からノートにまとめるなど、作業を一つずつに分ける方法も効果的です。
十分な睡眠でメモリを整理する
睡眠不足は、ワーキングメモリの働きを直接的に鈍らせます。テスト前の一夜漬けは、覚えた内容を保持したまま応用する力そのものを落としてしまいます。かえって逆効果になりやすい点には、注意が必要です。
よくある質問
Q. ワーキングメモリと集中力はどう違いますか?
集中力は「注意をどれだけ持続できるか」という力で、ワーキングメモリは「情報をどれだけ保持しながら処理できるか」という力です。両者は関係し合っていますが、別の働きです。集中を続けるための具体的なテクニックは「勉強に集中する方法15選|中学生・高校生が今日から使えるテクニック」で詳しく紹介しています。
Q. ワーキングメモリが弱いのは発達障害のサインですか?
ワーキングメモリの弱さは、発達障害のある子どもに見られやすい特性の一つです。ただし、弱いからといって必ず発達障害というわけではありません。生まれつきの個人差や、睡眠不足・ストレスなど一時的な要因でも起こります。気になる場合は、自己判断せずに専門機関に相談してみてください。
Q. ワーキングメモリを測るテストはありますか?
心理検査の一つであるWISC(ウィスク)などの知能検査には、ワーキングメモリの働きを測る項目が含まれています。医療機関や教育相談機関で受けられる検査です。日常生活に大きな支障がない場合は、必ずしも受ける必要はありません。
Q. ゲームやアプリで本当に鍛えられますか?
神経衰弱や暗算ゲームなどは、ワーキングメモリに近い負荷をかける遊びとして役立ちます。ただし前述の通り、ゲームの成績が上がることと学力全般が伸びることは別の話です。この点は知っておくとよいでしょう。
Q. 何歳からトレーニングを始めるとよいですか?
ワーキングメモリは子どものうちから少しずつ発達し、成人期にかけて容量が増えていくと言われています。年齢を問わず、メモを取る習慣やチャンキングの工夫は今日から始められます。
ワーキングメモリを味方にして、自分のペースで学びを進めよう
ワーキングメモリの働き方は人によって違います。人と比べて落ち込む必要はなく、自分の脳の特性を知り、負担を減らす工夫を積み重ねることが何より大切です。
Investureでは、こうした「自分に合った学び方」を見つけるヒントになる動画コンテンツやコミュニティを用意しています。今日紹介した工夫を試しながら、自分のペースで学びを進めてみてください。
監修:小牧健也(Investure編集長)

