「協働的な学び」という言葉を、保護者会や学校だよりで目にする機会が増えていませんか。2021年の中央教育審議会答申をきっかけに、この考え方を取り入れた授業改善が全国で進んでいます。
ただ、「グループワークと何が違うの?」と感じる方も多いはずです。協働的な学びは単なる共同作業ではなく、お互いの考えをぶつけ合い、一人では到達できなかった理解をつくり上げる学び方です。
ここでは、協働的な学びの定義から具体例、家庭でできるサポートまでまとめました。
協働的な学びとは?文部科学省の定義をわかりやすく解説
文部科学省が示す定義
協働的な学びとは、子どもたちが互いの強みを活かし、共通の目標に向かって学び合うことで新しい理解をつくり出す学習のかたちです。
2021年に公表された「教育課程部会における審議のまとめ」では、探究的な学習や体験活動を通じ、子ども同士や地域の方々と協働しながら、多様な他者を尊重し、持続可能な社会の創り手に必要な力を育てる学びと位置づけられています。
出典:文部科学省「教育課程部会における審議のまとめ」2021年1月
注目したいのは、テストの点数ではなく「社会を創る力を育てる」ことがゴールに据えられている点です。
「協働」と「協同」の違い
教育の文脈では「協働」と「協同」が混在することがあります。「協同」は対等な立場で力を合わせる関係性を重視する概念です。一方「協働」は、異なる背景や得意分野を持つ人たちが成果を生み出す点を強調しています。文部科学省の答申では「協働的な学び」が採用されており、「多様性を強みに変える」方向性が読み取れます。
従来のグループワークとの違い
従来のグループ学習は、作業を分担してつなぎ合わせることがゴールになりがちでした。協働的な学びでは、途中のプロセスで全員が意見を交わし、互いに影響を与え合うことが欠かせません。「なぜこの答えになるのか」「別の視点だとどうか」と問い合いながら、グループ全体で理解を深めていく点が大きな違いです。
協働的な学びが注目される背景
「令和の日本型学校教育」の柱として位置づけ
2021年1月、中教審は「令和の日本型学校教育」を答申し、サブタイトルに「個別最適な学びと、協働的な学びの実現」を掲げました。AIやビッグデータの進展、コロナ禍を背景に、一斉授業中心の教育を見直し、新時代の学びのかたちが示されたのです。
出典:中央教育審議会「令和の日本型学校教育の構築を目指して(答申)」2021年1月
コロナ禍で再認識された「対面で学ぶ」価値
2020年の全国一斉休校でオンライン授業が急速に広がる一方、画面越しでは得られない学びの存在も浮き彫りになりました。友だちの表情を見ながら意見を交わす、発表後に自然と生まれる質問——「同じ場にいるからこそ得られる刺激」の価値が改めて見直され、協働的な学びへの関心が高まりました。
Society 5.0時代に求められるチームの力
AIが定型作業を担う社会では、異なる専門性を持つ人とチームで正解のない課題に取り組む場面が増えます。経済産業省が提唱する「社会人基礎力」でも「チームで働く力」は3つの柱のひとつ。協働的な学びは、この力を中高生のうちから鍛えるトレーニングの場でもあります。
個別最適な学びと協働的な学びの関係
「個別最適な学び」とは
協働的な学びと対になるのが「個別最適な学び」です。一人ひとりのペースや理解度に合わせて学び方を調整する考え方で、「指導の個別化」と「学習の個性化」の2つの側面があります。GIGAスクール構想で1人1台端末が整備されたことにより、AIドリルなどを活用した個別学習が取り組みやすくなりました。
なぜ「一体的な充実」が求められるのか
文部科学省は2つの学びを「一体的に充実させる」ことを求めています。個別学習だけが進むと他者の考えに触れる機会が減り「孤立した学び」に陥るリスクがあり、協働だけを重視するとじっくり考える時間が取れなくなるからです。
まず一人で考えを深め、次にグループで意見を出し合い、そこで得た気づきを持ち帰って自分の理解をさらに深める——この「行き来」が学習効果を高めるポイントです。協働的な学びは、個別最適な学びが孤立に向かうのを防ぐ役割も担っています。
協働的な学びの具体例
ペアやグループでのディスカッション
もっとも身近な例が対話活動です。国語の授業で文学作品の感想をペアで共有すると、同じ作品でも着目ポイントが異なることに気づけます。社会科では、歴史上の出来事について「自分がその時代にいたらどう判断するか」を議論する実践も。正解がひとつに決まらないテーマだからこそ、多角的に考える力が磨かれます。
タブレットを活用した共同編集
1人1台端末の普及で、デジタルツールによる協働も広がっています。理科の実験結果をグループでスライドにまとめる活動では、グラフ作成・考察執筆・レイアウト調整と自然な役割分担が生まれます。他グループの資料にコメントを送り合えば、教室全体でフィードバックし合う環境もつくれます。
探究学習・プロジェクト型学習(PBL)
「地元の商店街を活性化するには?」「食品ロスを学校で減らすには?」といった実社会の課題にチームで挑むPBL(プロジェクト型学習)も注目されています。答えが決まっていないため、試行錯誤のプロセスそのものが学びです。自分の得意分野で力を発揮し、苦手な部分は仲間に頼る——社会で求められるチームワークを中高生のうちから体験できます。
協働的な学びで身につく力
コミュニケーション能力と傾聴力
「なぜそう思うのか」まで含めて伝える発信力と、相手の話を最後まで聞く傾聴力の両方が日常的に鍛えられます。推薦入試のグループディスカッションや就職活動の面接など、人生のさまざまな場面で活きてくる力です。
多様な視点を受け入れる柔軟性
異なる意見に出会ったとき、「なぜそう考えるのか」に関心を持つ姿勢は、協働的な学びの中で自然と育まれます。異なる文化的背景を持つ人と働く場面が増える社会では、「違いを強みに変える」経験が大きな武器になります。
創造的な問題解決力
他者のアイデアが刺激となって、予想もしなかった解決策が生まれることがあります。意見が対立したときに「両方のヒントを活かして第3案をつくる」経験は、社会人になってからも通用する貴重なスキルです。
協働的な学びの課題と気をつけたいポイント
一部の生徒に負担が偏るリスク
グループ活動では「積極的な子だけが進め、おとなしい子は見ているだけ」になるパターンが起きがちです。対策として、まず一人ずつ意見をタブレットに書いてから共有するなど、全員が参加しやすい仕組みが取り入れられています。
個人の貢献が見えにくい評価の課題
成果物がグループ単位のため、一人ひとりの貢献度が見えにくくなることがあります。振り返りシートやタブレットの編集ログを活用した評価方法が各校で工夫されています。
ICT環境の地域間格差
1人1台端末の整備は進んだものの、通信環境やICT支援員の配置には地域差が残ります。文部科学省はGIGAスクール構想第2期としてネットワーク改善や端末更新を推進中です。
保護者が家庭でできるサポート
日常の会話を「対話」に変える
ニュースを見ながら「あなたはどう思う?」と問いかけたり、「今日の学校で面白かった話は?」と聞いたりするだけで、考えを言葉にする練習になります。夕食の何気ない会話が、教室での発言力の土台をつくります。
子どもの意見をまず受け止める
「自分の意見を否定されない」という安心感は、協働的な学びの前提です。お子さんが何かを主張したとき、まず「そう考えたんだね」と受け止め、そのうえで「お母さん(お父さん)はこう思うけど、どう?」と対話を広げてみてください。
地域活動で協働を体験する
清掃活動やお祭りの運営ボランティア、スポーツクラブのチーム活動など、年齢や立場が違う人と何かを成し遂げる経験は、教室の外にある協働的な学びそのものです。その積み重ねが、学校での学びにも還元されます。
まとめ|協働的な学びは社会を生き抜く力の土台になる
協働的な学びは一時的なトレンドではなく、「令和の日本型学校教育」の柱として推進される取り組みです。個別で考えを深め、協働で視野を広げる。この循環が、変化の激しい時代を生き抜く力をつくります。
保護者としてできることは、お子さんが「人と関わりながら学ぶ」価値を理解し、日々の対話でその土壌を育てることです。
Investureでは、学校教育と社会をつなぐ実践的なコンテンツを通じて、子どもたちが協働しながら学び、挑戦できる環境づくりを応援しています。
よくある質問(FAQ)
協働的な学びと対話的な学びの違いは何ですか?
「対話的な学び」は「主体的・対話的で深い学び」の一要素で、他者との対話を通じて考えを広げるプロセスです。「協働的な学び」は対話に加え共同作業やプロジェクト活動も含む、より広い概念です。対話的な学びは協働を実現する手段のひとつと考えるとわかりやすいでしょう。
協働的な学びはどの教科で取り入れやすいですか?
教科を問わず取り入れられますが、社会科(ディスカッション・調べ学習)、理科(実験の協力・考察共有)、国語(意見文の相互コメント)、総合的な学習の時間は実践例が豊富です。算数・数学でも解法を説明し合う活動は効果的です。
内気な子どもでも参加できますか?
参加できます。タブレット上で意見を書いてから共有する形式は、口頭発言が苦手な子にも参加しやすい方法です。「聞き役」として貢献することも立派な協働の一部であり、どんな関わり方でもグループに貢献できるよう学校で工夫がなされています。
家庭で協働的な学びを実践できますか?
本格的な再現は難しいですが、親子で同じ本を読んで感想を伝え合ったり、週末の過ごし方を家族で話し合って決めたりする活動には、意見を出し合い折り合いをつける協働のエッセンスが含まれています。
協働的な学びはいつから始まった考え方ですか?
政策文書で前面に打ち出されたのは2021年の中教審答申からですが、子ども同士の学び合いを重視する教育は日本で以前から大切にされてきました。文部科学省も「日本型学校教育で従来から重視されてきた理念を再定義したもの」としています。
監修:小牧健也(Investure編集長)


